アポロ13号、ロストムーンについて

~アポロ13号~

 

1960年代、アメリカ、ソ連の熾烈な冷戦の舞台は宇宙へ向けられた。宇宙開発時代の幕開けである。人類初の人口衛星打ち上げにつづき、人類を初めて宇宙へ送ったのはソ連。先行されたアメリカはその目的地を月とするアポロ計画を発表し、時の大統領J・F・ケネディはアメリカ国民に「我々は月へ行く。これは困難への挑戦である」と宣言した。そしてその9年後、国民の熱狂の中アポロ11号はついに人類史上初の月面着陸を成功させたのだ。

 

その後も月面探査を目的に有人飛行計画は続けられ、アポロ13号も同様に計画された。3度目となる月への飛行にあわせ、不吉とされる13を背負うこの計画に対し、メディアや国民は冷ややかであった。しかし、4月13日、宇宙空間でのタンク爆発事故が起き状況は一変した。酸素不足、水不足、二酸化炭素濃度の上昇、電力不足と次々襲う危機。アメリカのみならず世界中の人々が注目する中、人類史上経験のない大事故にNASAは知恵と技術でこの危機に挑んだのだった。必ず仲間の命を助けると強く心に誓い、友情と努力をもってひとつひとつ問題をクリアしていった。また大気圏突入に必要な電力を確保するため、船内は極度の低温となったが飛行士もまた強い信頼をもって凍てつく船内で耐え続けた。

 

そしてついに最後の難関、大気圏を突破しNASAは無事飛行士を地球に帰還させることに成功した。NASAスタッフの絆の勝利であるこの救出劇はNASA史上における輝ける失敗と呼ばれ今も語り継がれている。

 


 ~ロストムーン ~

 

大統領の夢~オープニング・タイトル~

ケネディ大統領のスピーチと共に始まる短い前奏。CDではスピーチの録音に演奏が重なる形で収録されている。ありがちではありますが、印象的な導入。E♭のコードから壮大なテーマがクレッシェンドと共に奏され、まさに映画のオープニングクレジットに相応しい出だし。

 

1.大統領のスピーチ~リプライズ~

印象的なスネアの出だしと共にあまりにカッコいいトランペットのソロが主題を提示。やがてゆったりとした行進曲のように清水節満載の壮大なメロディが金管を中心として紡がれていく。合間に挟まるピッコロのオブリガート、息の長いベルトーンが、遥かなるロケットのイメージをかき立て、やがて行進曲はクライマックスを迎え、完全音程を基調とした弱奏のテーマにより、厳粛に第1楽章を終える。

 

2.アポロ13号~打ち上げ、運命の日1970年4月13日~

遥かなる宇宙を目指して―――快速のスタートにより、喜ばしいテーマがリズミカルに奏される。しかし長くは続かず、すぐに荘厳なテーマへと展開。続くトランペットの華々しいファンファーレに導かれて、木管の弱奏によるバラードが現れる。さしずめ、乗組員やスタッフの宇宙にかける思いといったところでしょうか。やがて鼓動を思わせる刻みとともに、長い時間をかけてクレッシェンドが行われ、打ち上げのクライマックスを築くのです。その後サウンドクラスターや自由奏法によって打ち上げが描写され、ついにアポロは宇宙へと。その後冒頭の快速部が再現され、情景は宇宙へ。ピアノの伴奏に切ないオーボエソロが重なり、遥か宇宙からの青い地球が描写されている。いよいよ月へ…ところがアクシデントが起こり、アタッカで第3楽章へ。

 

3.トラブル発生~ロスト・ムーン~

明るく感動的な音楽が一転、不気味で緊張感溢れる快速部へ突入。まさかのアクシデントに次々と故障していく船内。焦る乗組員…しかし焦燥とは裏腹に事態はどんどん悪くなっていくまるで、映画の戦いの場面のように緊張感溢れる描写が、清水節全開で進行。刻む低音、うなるホルン、駆け巡る木管…これぞまさに吹奏楽!コード進行が単純なだけに雰囲気は抜群。やがてトラブルは収束を迎え、どこか哀愁漂うバラードへと展開。よく聴けばこれまでのテーマの形を変えた変奏となっている。月への名残とともに、乗組員は奇跡にかけて、生還への帰途につく。

 

4.生還

マリンバの印象的なパッセージからスタート。管楽器群が息の長いフレーズで少しずつ加わり、やや緊張感を伴いながらも、奇跡を信じる人々の思いが壮大なフレーズで描かれる。これでもかと言わんばかりに平行進行とsusコードが現れ、盛り上がっては引いて、盛り上がっては引いて…さざなみのように音の奔流は繰り返され、来たるべき生還のエンディングへ向けてただひたすらテンションがあがり続ける。不可能と思われた地球への生還…それはやがて現実のものへと。暗い響き、明るい響きが入り混じり、クレッシェンドにクレッシェンドを重ねて、ついにアポロ13号は地球へ帰還。すべての人々の栄誉を讃えるかのように荘厳華麗な怒涛のグランドフィナーレを形成し、感動のフォルテで幕を閉じる。

恥ずかしいくらいにダサカッコイイ音楽。タイトル通りの音楽を想像していただければその想像通りの音楽が展開される。泣くところ、燃えるところがすべて詰まっており、最後に必ず感動が押し寄せる、というベタベタ音楽。「こうくれば感動の嵐!」「こう盛り上がればすごい壮大!」「この和音進行はロマンチック」という流れを、まったく裏切ることなく全部書いてある…、そんな曲です。